仕事の範囲
目次
どこまで発注者に口出しするか
エンドクライアントと直接折衝がない下流工程の仕事を請ける時に、Webディレクションの知識が活かされる場面が稀に訪れます。といっても特別なことではなく、デザインやマークアップをした後に待ち受ける問題の先読みや疑問出しといったところです。本来ならそのようなことをせずに指示に従えば良いのですが、指示がないケースもままあります。その際にはディレクション料金が発生せず、ディレクション料金を頂戴したお仕事との公平性から、提案やアラートのような口出しをどこまでするかが悩ましく、難しいと感じます。
もちろん料金が貰えるのならば、張り切って対応するのですが、Webディレクションの価値を発注者に理解してもらえず、デザインやマークアップの料金に含まれてしまうケースが多いのではないでしょうか。※Web専属ではないディレクターの方々もこのあたりに齟齬があり、webなんだからwebまわりはそっちでなんとかしてと思われているケースも。実際その範疇はデザインやマークアップじゃないのになんてこともしばしばで、これまでの関係性から仕方なしと妥協することもあります。まぁ、お世話になっていますからね。
口出しせず、言われるがままに従順に手を動かすのも一つの対応策です。しかし、修正が雪だるま式に増えたり、納期寸前で仕様変更か!など一筋縄ではいかないケースもありますよね。依頼を請ける段階で口うるさく言った方が、後々楽になったのではと後悔することも多いのではないでしょうか。これらを経験するたびに、できるだけ修正を減らしたり、拘束期間を短くできないかと考えましたが、やっぱり自分を助けるためには、ある程度Webディレクションもどきを発動した方がいいんじゃないかと思い始めています。そして、度々同じようなことが起こるということは、それは発注者との間にあるWebディレクターの役割とWebディレクションの範囲の認識違いに問題があるのかもしれません。まあ、仕方ないですけど。
Webディレクションの範囲
Webディレクションを担うWebディレクターの仕事って、大まかに顧客折衝・サイト設計・進捗(制作)管理・予算管理に分けられると思います。一体どんだけ仕事があるのやら。組織によっては、営業を兼ねることも。そして、このWebディレクションは業界により、別な作業も重視されます。
Webサイトのコンセプトと表現を考えるクリエイティブディレクション、読者とのコミュニケーションに効果を発揮するコピーライティング、Webサイト公開後にWebサイトの目的・目標に達成しているか検証するアクセス解析、Webサイトの目標を有利にするSEO対策などなど。各スペシャリストと連携することも多いでしょうが、組織によっては一人でこなさなければなりません。これを複数プロジェクトを担当することもあるんですから、大変ですよね。
このようにやらなければならないことだらけですが、基本は前述の4つ。これらは有料のWebディレクションとして考えられるので、普通の請負仕事の場合はこれらの内容を発注者にお任せしなければなりません。この仕事の範囲にお互いの認識違いがあるのではと考えています。具体的な内容は以下です。
クライアントとやりとりする顧客折衝
クライアントやエンドクライアントとこれから制作するWebサイトの請負側責任者になるケースが多いのではないでしょうか。プロデューサーや営業がいない組織では、営業工程も含めて担っていることでしょう。制作工程では、成果物の確認や提案を行い・顧客からのフィードバックを受け、制作チームとの架け橋になる役割です。顧客折衝だけならば、プロダクションマネージャーという形で、制作進行を担いますが、ディレクターとしては決めたり・判断したりする役割が求められます。顧客折衝は、ほぼ発注者が対応している印象。逆にエンドクライアントに接触させないというのもあるでしょう。あとは決定・判断をやっているかが気になるところ。そこをやってもらわないと先に進められなかったりしますからね。
Webサイトの目的を達成するサイト設計
クライアントからのヒアリングをもとに、Webサイトの目的やゴールを設定し、それらを達成しうるWebサイトを設計しなければなりません。Webサイトの根幹を担う大事な仕事です。表現面を重視するならクリエイティブ・ディレクターやアート・ディレクターと連携し、構成や落とし所を重視するならライターやUIUXデザイナーなどと協議が必要でしょう。システム重視ならエンジニアの協力が欠かせません。意見を取りまとめ、クライアントや制作メンバーと共有するためのサイトストラクチャ・ワイヤーフレーム・制作ルールなど資料に落とし込むのが仕事です。これらに加え、サーバーやドメインの選定や提案などWebサイトを公開する上で必ず必要なものの準備を担当することもあります。あいまいな部分が多いのはこの役割。範囲が広いので仕方ないかもしれませんが、発注者が仕切りきれていない印象をたまに抱きます。
プロジェクトを滞りなく進める進捗(制作)管理
Webサイトを無事納品するために、制作チームとクライアントを含めて制作工程が円滑に進行しているか管理する役割。主にWebディレクターが担っていると思いますが、規模が大きいプロジェクトではプロダクションマネージャーという形で、制作進行業務の一部としている場合もあるかもしれません。ガントチャートやメッセージツールなどを使って管理しているケースも多いでしょう。
そうそう、進捗管理の前に、制作チームをアサインする必要があります。例えば、表現にマッチしたデザイナーを指名し、動きの難易度にあわせたマークアップやフロントエンド、システムの規模によったエンジニアのアサインをします。予算を考えながら外部リソースを使うのか、内部で済ませるのか、Webディレクターに選定権がある場合が多いと思います。彼らをチームとしてまとめ、スケージュールに沿って、進めていくことが仕事です。制作からあがってきた成果品のチェックも担い、検品者としても働かねばなりません。規模の大きいプロジェクトでは、専任の人がいる場合もあります。
この役割も人によってはおざなりに。スケジュール管理などは性格にもよるのか、気にしない方は気にしない印象です。
経営に直結する予算管理
プロジェクトに関する予算を管理する役割。赤字・黒字は経営にも関わるので、大事な仕事です。制作チームの人件費や外部メンバーのフィーなどを加味しつつ、プロジェクトに係わる必要経費や雑費なども含めて、ある一定以上の黒字を目指すのが一般的でしょうか。これは組織によって色々なケースがありそうです。ただ言えるのは、経営の屋台骨を支えるのが予算管理です。作業工程の漏れや無理な依頼などで工数だけかさみ、赤字のプロジェクトになっては企業が傾きかねませんからね。流石にこの役割を軽視する方はほとんどいませんでしたが、前述3つのどれかを軽視して、結果的に赤字になるというケースは遭遇したことがあります。
管理を体系化したプロジェクトマネジメントで漏れを防ぐ
Webディレクターの役割が多岐に渡るので、ヌケモレが出るのも致し方ありません。経験が予測に直結する仕事なので、経験が浅いほど増えることでしょう。色々なWebディレクターを見てきましたが、経験があるほどプロジェクトを楽に回している気がします。Webは比較的新しい事業ですが、先人が多いシステム開発ではプロジェクトを体系的に管理するプロジェクトマネジメントが発展してきました。その考え方はWeb制作にも有用です。私が教わったのはPMBOK(Project Management Body Of Knowledge)。本や研修などで学ぶことができます。最近は無料のオンライン講習などでプロジェクトマネジメントを学習することも可能です。
PMBOKを学んだ時に衝撃を受けたのがWBS(Work Breakdown Structure)でした。よくあるケースだと思いますが、クライアントと折衝する時に、誰がどこまでを担当するか明文化されておらず、後々揉めるというもの。作業の洗い出しが甘いと、見積もりにも影響します。WBSでサイトのフローを落とし込んでいくと、スケジュールの厳しさや曖昧さが浮き彫りになり、誰がどこの担当かをはっきりと役割を決めることで、漏れやトラブルを少なくできるのは助かりました。特にスケジュールを明確にすることで、なぁなぁで曖昧な期間を正すことができ、納品と売上回収に目処がつけやすくなります。逆にこれらでヌケモレを解消できないとしわ寄せが来て、徹夜やストレスのもとになるので、できれば潰しておきたいところです。
元請けはぜひプロジェクトマネジメントの実践を
最初の口出しの話に戻りますが、元請けの担当者がプロジェクトマネジメントを実践すれば、問題はグッと減ると思います。Web制作に関する人々には身近な問題のため、ブラッシュアップされる感があり、その効果を感じることができるでしょう。しかし、Web制作が主業務ではない企業が上流工程を担当すると、下流工程の流れがわからないために、マネジメントが崩壊しているケースも多いのではないでしょうか。そうなる前に、下流工程を担当するデザイナー・マークアップ・フロントエンドの方々に頼んで、不明な機能や疑問点の洗い出しや確認をお願いすると良いかもしれません。
普段は指示されるのが当たり前なので、怪訝な顔をされるかもしれませんが、マネジメントが崩壊するよりはマシ。これらをまとめ、エンドクライアントと内容を詰めることができれば、しめたものです。最初は不明点だらけで、匙を投げたい気持ちになるかもしれませんが、内容を詰めていくのが一番の近道。打ち合わせの回数を重ねてたことで、エンドクライアントの信頼を勝ち取り、仲良くなることもあるかもしれませんよ。
逆にこれらを疎かにして、エンドクライアントの言いなりのまま右から左で指示を出し、指示の内容に納得できぬまま制作チームに不満がたまっていたり、後追いでそれはないでしょと絶望され、恨みをかうこともなきにしもあらず。個人的には体力勝負の納品はもうイヤです。計画どおりにやっていきたい。全部を防ぐことは無理ですが、少なくするのに有効なのがプロジェクトマネジメントなので、プロジェクトを推進する方にはぜひ実践することをオススメします。